国際環境協力
 近年、環境問題が、国際的な広がりをみせる中で、開発途上国からの技術支援への期待や要望が高まってきています。平成7年度に行われた、センターが関係した国際協力のいくつかをご紹介します。

1 JICA特設研修コースの開設
 平成7年度から、JICA特設研修「環境保全技術(地域環境保全計画)」コースを開設し、インド、イラン、ジョルダン、マレイシア、パラグアイ、フィリピンから6名の研修員を受け入れました。
 この研修は、地域の環境保全を総合的に管理するために必要な環境保全に関する諸制度や環境アセスメントを始め大気、水質などの調査方法や測定技術等を広く修得する事を目的に実施しました。
 研修期間は、9月11日から11月19日までの70日間で、講義や実習のほか野外調査、施設見学などからなる研修を行いました。
 野外調査では、釧路、旭川、苫小牧等を訪れ、大気、水質の調査技術を学ぶとともに、北海道の自然や文化にふれる機会も多く、研修生の中には生まれて初めて見る雪に驚きと喜びの声も聞かれました。
 コースを終了した研修員が帰国後、この研修で修得した知識・技術を自国の環境保全施策の推進に生かして活躍されることを期待しています。

2 第2回北方圏フォーラム総会
 共通の気候風土をもつ北方圏の諸地域が参加する「北方圏フォーラム」の第2回総会が9月11日から14日の日程で、札幌市で開催されました。
 同フォーラムでは、北方圏地域に共通する課題の解決を図るため16のプロジェクトに取り組んでおり、環境分野では道から提案された「野生動物の保護管理指針の策定」と「大気、海洋の環境調査」の2つの優先プロジェクトを進めています。
 センターでは、関連する会議への参加や調査を通じてプロジェクトの推進に積極的に携わっています。
 また、期間中には国連環境計画(UNEP)事務局次長のルーベン・J・オレンボ氏が当センターに視察に訪れました。
フォーラムメンバー地域 (10カ国、19地域)
アメリカ:アラスカ州  中国:黒竜江省   カナダ:アルバータ州
日本:北海道   ノルウェー :北部地域連合南トロンデラグ地方
韓国:国家政府  フィンランド:ラップランド地方
スウェーデン:ヴェステルボッテン地方  モンゴル:ドルノド地方
ロシア:サハ共和国、コミ共和国、マガダン州、サハリン州、カムチャッカ州、他

3 中国黒竜江省との交流
 道と姉妹友好地域にある中国黒竜江省との環境分野での交流事業を一層具体化するため、職員の相互派遣を行い、現状の把握と今後の交流内容や課題の整理を進めています。7年度のセンター職員の派遣に引き続き、今回は、黒竜江省から2名の職員が7月24日から2週間の日程で来道しました。
 また、8年度にはハルビン市で友好提携10周年の記念事業の開催が予定され、今後も積極的に技術交流を行うこととしています。

4 モンゴルへの環境専門家派遣
 JICAの要請で中嶋化学物質科長が、7月16日から1ヶ月間モンゴル国中央環境研究所に派遣され、大気汚染測定技術の指導を行ってきました。
11月には同研究所のブルガン主任研究員がセンターを訪れました。モンゴル国は北方圏フォーラムの「大気・海洋の環境モニタリング」に参加しており、酸性雨のモニタリング調査について意見交換を行いました。
 また、センターでは8年度にも1ヶ月間ほど再度、同国を訪問し、分析技術の指導を行う予定です。
(企画調整課 津島)

■地球環境時代において(酸性雨問題を通して)■
 最近、国際会議など欧米や他のアジアの研究者の話を聴く機会などが多い。それらの機会に酸性雨などの大気汚染問題を通して得られた知見を紹介する。
 酸性雨問題は、日本では未だ雨や雪の汚染であるとの認識が強いが、この問題の先進国である欧米では、大気汚染全般(大気の酸性化)として捉えられており、対流圏オゾンも含まれる場合が多く、また大気に限らず、土壌や水質を含めた物質循環など環境の酸性化としての研究も多い。欧米では、生態系への影響から研究が始まっている場合も多いことから、日本に比べて、大気分野以外の研究者も多い傾向にあり、研究分野の垣根も低い傾向が見られた。この傾向は、産学官の関係においても見られ、 20〜30 年以上前から実施されている降水成分のモニタリングネットワークにおいても密接な協力関係が見られる。アジアにおいても、最近漸く、東アジアにおける酸性雨のモニタリングネットワークを構築してデータを共有化しようとの計画が進められてきているが、産学官の垣根以前に官内部の省庁の垣根が懸念されている。実際、日本においても各省庁などによる複数の降水成分に関するモニタリングネットワークがある。この縦割行政は、日本だけではなく、中国や韓国でも見られ、欧米では不評である。しかし一方、欧米の研究者は「これからの大気汚染、酸性雨問題はアジアが焦点である。」との認識が強く、研究フィールドをアジアに進出させている。これに対して、アジアの問題はアジアで解決すべきとの意見も多く、今後はよりオープンな研究交流が進められる必要があり、官の世界の改革がこのような分野でも期待される。
 地球環境時代と言われる今日、酸性雨、温暖化、オゾン層の減少、海洋汚染など環境問題の国際化は充分進んでいるが、それに対応する我々の国際かはまだ途についたばかりである。
(大気環境科 野口)

■染 色 体■
 染色体とは細胞が分裂するときに現れる棒状の構造体で、主に DNA とタンパク質からなる「遺伝子の乗り物」です。染色体という名は塩基性の色素で濃く染色されることから名付けられました。
 細胞分裂時以外の細胞では、DNA は染色糸と呼ばれる状態で細胞核の中に均一に散らばっています。ヒトの1つの細胞に含まれている DNA は、直径約 2 nm (ナノメートル: 10−6 mm)、全長は約 190 cm あります。このヒトの身長以上もある DNA が、肉眼では見えないわずか10ミクロン程度の核の中に収められています。これを仮に1万倍に拡大した場合、太さ 0.02 mm、長さ 19 km の糸を直径10 cm の球の中にしまい込むという計算になります。細胞分裂時には、この DNA がタンパク質とともに細かく巻き上げられて染色体となります。
 ヒトは46本の染色体を持っています。ヒトの体を構成する細胞は約60兆個ともいわれていますが、そのほとんど全ての細胞にはそれぞれ46本の染色体が含まれています。46本の染色体のうち、44本の中には同形・同大の染色体が必ず2本ずつあり、22種類の染色体2組に分けることができます。残りの2本は、形や大きさが男女によって異なっていて、男性は X 染色体と Y 染色体が対に(44+X+Y=46)、女性は X 染色体2本が対に (44+X+X=46)なっています。通常の細胞分裂では染色体数は変化しませんが、精子や卵が作られる過程では染色体数が半減し、精子の染色体は 22+X と 22+Y の2種類に、卵の染色体は 22+X のみとなります。これらが受精することによって、その子どもは再び46本の染色体を持つことになるわけです。子どもの性別は、2種類ある精子のどちらが受精するかによって決まります。
 染色体は、生物の種・品種・系統によってその数や構造が決まっています。そして、その染色体構成は親から子、子から孫へと代々規則正しく受け継がれていきます。
 しかし、ごく稀に数や構造が変化することがあり、それを染色体異常といいます。染色体異常は、その個体にとって有害な影響をもたらすことが多く、ヒトにおいてもいくつかの染色体異常疾患や、ガンとの関連性が知られています。染色体異常は種々の化学物質や、紫外線・放射線などの環境要因によっても誘発されます。例えば、オゾン層の破壊が問題になっている理由のひとつは、地球規模で紫外線量が増加することによって染色体異常の頻度が増え、人の健康や生態系に悪影響をもたらすことが予想されるためです。
(地域環境科 五十嵐)

■モンゴル中央環境研究所■
 モンゴルは日本の面積の約4倍、人口は北海道のほぼ半分で、人口密度は世界一小さいところです。大きな工場もほとんど無く環境汚染が進んでいるわけではありませんが、首都ウランバートルでは発電所、ゲルでの家庭暖房、急速に増加しつつある自動車などによる大気汚染、北部の農業開発が進められている地域では農薬の使用による土壌汚染や砂漠化、また中国、ロシアの核実験場に挟まれているので放射性核物質の問題等が懸念されています。
 昨年夏、JICAの依頼により個別専門家(大気汚染)としてモンゴル中央研究所に派遣されました。
 中央環境研究所は首都ウランバートルの南西郊外の工場地帯にあり、現在、所長、チーフエンジニアの下に大気、水質、土壌、放射線監視の4部門が、それぞれ精力的に環境監視を行っています。1990年に共産主義体制を放棄するまではソ連(現ロシア)との関係の中で研究所の管理や運営を行ってきましたが、民主化後ロシア人が引き上げたため自国の研究者だけで環境監視を継続しています。体制崩壊後の混乱は大きく機材や試薬類の不足により十分な調査、監視体制が整っているとは言い難いが、所長はじめ研究員は皆若く意気込みは大きなものがあります。
 中央環境研究所には、日本の援助により環境測定のための大気汚染自動測定器やガスクロマトグラフ、高速液体クロマトグラフ、原子吸光光度計などが設置されていますが、私たちもそうですが慣れない機器類を扱うのはなかなか大変なもので、原子吸光光度計や純水製造装置を除くほとんどが、使われていませんでした。研究所では大気汚染自動測定機の運転開始、その取扱い、保守点検について指導し、その後ガスクロマトグラフ、高速液体クロマトグラフを使って大気汚染物質の分析方法を指導してきました。
 また、昨年秋には、新潟市で開催された第3回東ア ジア酸性雨モニタリングネットワークに関する専門家 会合に出席した中央環境研究所のチーフエンジニア Ms.Bulgan さんを当センターに招待し、モンゴルの環境問題について講演をお願いすると共に苫小牧地方環境監視センター、北電厚真火力発電所等を見学してもらいました。ちなみに、当日の通訳にはモンゴルの農牧省から派遣されて道庁農政課で研修中の Mr.Puntsagsuren さんにお願いしました。
(化学物質科 中嶋)

■メスジカ狩猟個体の個体群解析■
 エゾジカによる農林業被害が激増していることから、北海道では昨年度から74年ぶりにメスジカ狩猟が地域と期間を限定して解禁となりました。センターではしかの適正な保護管理を進めるためのモニタリング調査の一環として、メスジカ狩猟個体の年令査定、妊娠率及び栄養状態について分析を行っています。
 昨年度の猟期にメスジカが 2,000頭捕獲されましたが、そのうちの510個体(23%)の分析を行いました。その結果、捕獲個体の年齢構成は若齢個体が多いL字型となっており、増加期の特徴を示していました。また、妊娠率は1歳で83%、2歳以上では74%と高い繁殖力を示しました。メスジカの寿命は平均3.7歳であり、最高死亡齢は16歳から17歳です。出生後、半年までに実に43%が、1歳半までには半分が死亡していることがわかりました。下顎の骨髄内の脂肪含有量からみた栄養状態も良好でした。
 以上のことから、昨年度の猟期のメスジカは、繁殖力が高く、栄養状況が良好な増加期型の個体群と見なすことができます。
 今年度はすでに、昨年度を上回る試料が送付されてきており、現在その分析を進めているところです。
(野生動物科 梶)