「化学物質」という言葉から何を連想しますか?日常の生活からはるかに離れたハイテク工場、実験室といったイメージがあるのではないでしょうか。しかし、私たちの身の回りを見て下さい。「衣」・「食」・「住」どれをとっても化学物質と関わりを持たないものはなく、もはや私たちの生活は化学物質なしでは成り立たないといっても過言ではありません。しかし一方で、化学物質による環境汚染が私たちの生活を脅かしていることも事実なのです。
 一口に「化学物質」といっても鉱石や海水の中から精製して取り出されるものもあれば、いろいろな物質を反応させて新しく作り出されるものもあります。科学技術の発達などによって合成される化学物質の種類はどんどん増え、今日、日本において生産・使用されている化学物質だけでも約48,000種類に及びます。これらの化学物質によって、私たちの暮らしは豊かで便利なものになりました。しかしその反面、使用されている化学物質が必ずしも安全なものばかりとはいえないこともわかってきました。化学物質は、製造・輸送・使用・廃棄という人の手を介する過程で、大気・河川・海・土壌などの環境中に放出される可能性があるのです。
 私たちをとりまく環境を保全するため、環境基準が定められています。たとえば、水質環境(河川・湖沼・海域・地下水等)では、化学物質について10数項目について基準値が設定されています。平成7年度に実施された北海道の河川・湖沼・海域の測定結果では、環境基準を超えて検出された地点はありませんでした。しかし、地下水に関しては、テトラクロロエチレンなど有機塩素系化合物が、環境基準を超えて検出された地点もあります。テトラクロロエチレンなどは、油分や繊維製品の汚れを落とす目的で、様々な工場や事業場で使われていますが、土壌への吸着性が低く、また、比重が大きいことから地下水を汚染しやすく、全国各地で汚染が進んでいます。テトラクロロエチレンの環境基準値は0.01mg/l以下(年平均)と定められています。この0.01mg/lというのは1Klの水に約一滴(0.01g)溶けていることですから、その毒性の高さがわかります。当センターでは現在、有機塩素系化合物による土壌汚染のある地域で汚染物質が環境へ排出された原因を調査すると共に、汚染された土壌を浄化するシステム作りも行っています。
 しかし、環境基準が決められているのは、化学物質の中のほんの一握りです。様々な化学物質が大量に工場などで使用されていますが、そのほとんどは、どこでどれだけ使われ、排出されているか把握されていません。環境庁では、このような状態の改善をねらい「環境汚染物質排出移動登録(PRTR)制度」の導入に取り組んでいます。これは有害性が明確、もしくは疑われる化学物質の排出量や移動量を、当事者の企業が調べて行政に報告し、行政はその内容を公表するというもので、米国では86年に法制化されています。この制度は、政策決定過程から実現段階まで、私たち国民と民間活動団体(NGO) 、行政、企業が同じ土俵で化学物質対策に参加するという新しい試みで画期的な環境対策として期待されています。
 当センターでは、化学物質科、環境化学科を中心として環境中の化学物質の濃度の調査等を行っています。なかでも生活に身近な農薬については、ゴルフ場、農用地での残留、流出特性の調査・研究が進められています。しかし、環境中のすべての化学物質を測定することは現状では不可能なことです。数万種類といわれる未知の化学物質が複合的に含まれる環境汚染の度合い(生体影響)を総合的に評価するため、変異原性(遺伝子を傷つけ突然変異を生じさせる能力)についても研究しています。  環境汚染と聞くと、色や煙や臭いといった五感に感じるものがまず浮かびます。しかし、色もなく見た目ではわからなくても化学物質の汚染は起こりうるのです。 私たちの生活を支える化学物質が持つ、『環境リスク』という側面を忘れてはいけません。
(化学物質科 澁谷)

■衛星情報による広域沿岸域の水質監視■
 現在、沿岸海域では、小型の漁船を用いて海水試料を採取し、分析することによって水質監視を行っています。そのため調査範囲はごく沿岸に限られています。しかし、沿岸海域の汚濁の程度とその範囲は、海流・地形・流入河川・気象等の多くの因子によって左右されるため、汚濁の原因やその機構を明らかにするためにはより広範囲の水質に関する情報が必要です。これまでと同じ方法の調査で広範囲の情報を得ようとすると、その範囲が広ければ広いほど人手と時間がかかります。そこで、より広範囲を短時間で観測できる“リモートセンシング”が注目されています。
 リモートセンシングとは、人工衛星に載せた観測器(センサ)を使い、地球表面を観測する技術のことです。よく、テレビの天気予報で“ひまわりからの雲の映像”が紹介されますが、あれもリモートセンシングの1種です。リモートセンシングは、地球上の植生分布、植物の活性度や海洋、河川、湖沼、大気の汚染状況、人工の都市集中度、農作物の作柄状況、資源の有無など様々な分野で応用されてきています。
 みなさんが、海や川が“きれい”か“汚い”と感じるのはどの様なときでしょうか? もちろん、極端に汚い場合は悪臭がするでしょうが、多くの場合、水の色を見て“きれい”“汚い”の判断しているのだと思います。“きれい”な水は青く見え、“汚い”水は茶色がかって見える。この水の色の違いをリモートセンシングを用いて観測することによって、沿岸海域の汚濁水の広がりを明らかにすることが出来ます。
 北海道では、噴火湾などにおいて既にリモートセンシングが使われていますが、当センターでも今後この技術を導入し沿岸海域の監視を行うべく検討を始めています。
 右の画像は、衛星から見た北海道東部で、釧路から根室にかけての沿岸域に外洋とは違う色の水が広がっているのが見て取れます。
 今後、リモートセンシングによって汚濁の程度の指標であるCOD・SSなどと水の色との関係を明らかにすることが出来れば、汚濁水の広がりだけでなく、汚濁の程度を明らかにすることも出来るようになるでしょう。
(水質環境科 濱原)

■ピコ植物プランクトン■
 一般に、プランクトンとは小さなものという印象がありますが、なかでも大きさ0.2〜2 μm(マイクロメートル;1μm は 1/1000 mm)しかない微小な植物プランクトンがいます。それらがピコ植物プランクトンと呼ばれるものです。「ピコ」とは1兆分の1を意味する十進単位系の接頭語で、極めて微細なことを意味しています。
 肉眼でようやく見ることのできるミジンコでも約500 μm あることを考えると、ピコ植物プランクトンがいかに小さなものであるかを想像することができるでしょう。ピコ植物プランクトンは、通常の顕微鏡で見ると、ごく小さな粒にしか見えません。実際、これまでの顕微鏡観察ではピコ植物プランクトンが見落とされることが多かったのですが、電子顕微鏡や落射蛍光顕微鏡など、特別な顕微鏡を用いた調査の結果、湖沼あるいは海水中に広く分布していることが明らかになりました。
 湖では、通常、ピコ植物プランクトンが1 ml 中に数万から数十万細胞も存在しており、クロロフィル(葉緑素)の量は全植物プランクトンの数十%を占めています。ピコ植物プランクトンが異常増殖したことによって湖の透明度が低下した事例もあります。また、外洋では多いところで、一次生産の98%はピコ植物プランクトンによって行なわれているという報告があります。一次生産とは光合成による有機物の生産のことで、地球上のすべての生物の生活の基礎となるものです。ピコ植物プランクトンが外洋における生産のほとんどを担っているということは、地球規模の物質循環やエネルギーの流れを考える場合に極めて重要な存在であることを意味しています。
(地域環境科 五十嵐)

■中国黒竜江省環境保護局■
 北海道と姉妹友好地域にある中国黒竜江省との環境分野での交流事業は、6年度からの職員の相互派遣を契機として、交流内容を充実させるために課題の整理を進めてきております。
 黒竜江省は中国東北地区の最北端にあたり、省の形が白鳥に似ているところから「白鳥の省」と呼ばれています。面積及び人口は、北海道と比較するとそれぞれ約5.4倍、約6.3倍であり、大慶の油田開発や農業生産の飛躍的な増大によって、中国の重要な農・工業基地として発展を続けております。
 黒竜江省の環境保全施策は省の環境保護局が中心となって講じており、局の構成は次のとおりです。


 8年度は、北海道と中国黒竜江省との友好提携10周年記念事業の一環として、9月7日に中日環境保護検討会議がハルピン市において開催されました。
 北海道からは、小笠原環境室長他2名と大宅・伊藤両部長が、黒竜江省からは、李環境保護局長他11名が参加し、水・大気などの問題について討論を行い、両地域の環境実態の相違や今後の環境保全対策について理解を深めることができました。
(環境保全部 伊藤)

■客員招へい研究員■
 企画振興部の「国内客員招へい研究員」として東京大学海洋研究所助教授の松田裕之さんをお招きして、第2回目の「エゾシカの資源管理的研究の勉強会」をちょうど終えたところです。この制度では1回5日間を限度に3回の指導をあおぐことができます。
 増加するエゾシカが農林業被害の激増をもたらせ、その対策が北海道政の重要な課題となりました。さらに北海道東部のエゾシカの保護管理計画を1年以内に策定するというスケジュールも決められ、その重責を痛感しながらも、どのように段取りを進めたらよいか、考えあぐねていました。
 そのような折り、招へい研究員の補欠枠が一つあるとの通知がきて、すぐに脳裏に浮かんだのは昨年からインターネットで研究交流が始まった松田さん(当時九州大学)でした。
 松田さんは数理生態学の専門家であり、進化生態学、水産生態学、個体群生態学など多様な分野で世界的に活躍されている方です。松田さんをお招きするねらいは、保護管理計画を策定するにあたって、今年度中にその理論的検討を終えておくことにありました。
 松田さんが快諾され、また企画が採択されたことによって、勉強会が実現しまた。職場の同僚や北大や森林総合研究所の研究者にも加わっていただき、知的でスリリングな大変に充実した勉強会が実現しました。第3回目を終え、資源管理計画策定のめどもほぼ見えてきました。
(野生動物科 梶)

■全国公害研協議会の各表彰で2名受賞■
 大宅辰紀環境科学部長が平成8年度の全公研会長表彰を受賞しました。30年間にわたり大気汚染や騒音、悪臭等の分野で数多くの調査・研究に携わり、多くの業績を残したことによるものです。授賞式は、平成8年12月4日に東京都庁で行われ井口恒男会長から他の4名と共に表彰を受けました。
 又、斉藤修環境保全部水質環境科長も平成8年度の全公研北海道・東北支部長表彰を受賞しました。24年間にわたり主に沿岸海域の水質保全に関する調査・研究や若手研究職員の指導育成にあたり、それらの業績によるものです。授賞式は、平成8年5月23日に秋田県での支部総会で行われ中村一夫会長から他の2名と共に表彰を受けました。
(地域環境科 藤田)