平成10年は「環境ホルモン」元年ともいうべき年であり、国では、総額120億円もの補正予算を組み、環境ホルモンに関する研究がスタートしました。
 「環境ホルモン」というわかりやすい言葉のおかげで、難しい内容にもかかわらず、全国津々浦々にこの環境問題が浸透し、化学物質の環境調査として、各地方自治体研究機関が主体となり25年にわたり取り組んできた非常に地味な環境庁の「化学物質安全性総点検調査」(通称黒本調査)が、一挙に表舞台に出た年でもありました。
「環境ホルモン」は、今までの化学物質問題としての発ガン性と異なり、生殖異変であるという理由もありますが、「外因性内分泌撹乱化学物質」という硬い表現では今日のような事態にはなっていないと考えられます。
 日本子孫基金とカップめん業界との対立、学校給食食器からポリカーボネート製を撤去する自治体、ダイオキシンの全国的な汚染拡大など多くの話題があり、平成8年10月にNHK衛星第二で放映されたBBCのドキュメンタリー番組で環境ホルモン問題が取り上げられました。この番組のなかでは、環境エストロジェンという言葉を使用していましたが、EPA(米国環境保護庁)設立の一因となった「沈黙の春」では指摘のなかったプラスチックや非イオン系洗剤が生殖異変の原因物質として大きくクローズアップされていました。同じころ、平成8年3月に出版された「Our Stolen Future」が海外ではベストセラーになっており、これが環境ホルモン問題を、ごく一部の専門家から他の多くの人々に広めるきっかけとなったようです。
 日本国内でも世論が騒然としてきた平成10年5月に「外因性内分泌撹乱化学物質問題への環境庁の対応方針について−環境ホルモン戦略計画 SPEED ' 98」が発表されました。そして、道庁内に化学物質環境保全対策検討委員会が設置され、有識者、行政、道立試験研究機関が参加しています。
 これに伴い、全国一斉の環境媒体中の環境ホルモン調査が始まり、当センターもこの業務の一部を受託し、ダイオキシン以外のリストに載っている全物質の分析を、現在行っている最中です。また、新規に分析機器としてLC/MS(高速液体クロマトグラフ/質量分析計),GC/MS/MS(ガスクロマトグラフ/タンデム質量分析計)が整備されました。
 トリブチルスズが海水中に1ppt(1兆分の1)というごく低濃度で存在しても、メスの巻貝類のオス化が発生すると言われているように、環境ホルモン分析には、超微量分析が要求されております。
 また、プラスチック関連物質、ノニルフェノール類などは、身の回りの日用品中にも多く存在しますので、これらと実際の環境サンプル中に含まれる量との識別は、環境ホルモン分析を困難にしている一因となっています。
 ところで、EPAは環境ホルモン問題に対応するため、食品品質保護法、飲料水安全法を改正し、まず年間4.5トン以上生産されている化学物質約15,000物質について、環境ホルモン作用を持つかどうかのバイオアッセイ(生物検定法)による事前スクリーニングを開始しました。1年後には毒性物質規制法に登録されている約86,000物質についても環境ホルモン作用を持つかどうかの評価を実施する壮大な国家プロジェクトを計画しており、今後環境ホルモン作用を疑われる化学物質数は膨大な数になると考えられます。
 したがって、このような潜在的に有害と考えられる物質の環境へのリスクを減らし、化学物質のマスバランスを把握するPRTR制度(環境汚染物質排出・移動登録制度)が環境ホルモン管理にもおおいに期待されますが、法制化を前に、地方自治体の関与がほとんどない通産省案になってしまいそうなのは残念です。
 今回の全国一斉の環境媒体中の環境ホルモン調査でも環境庁、建設省が別々に結論を出して終わるのではなく、統合された評価を出して環境政策に生かしてもらいたいものです。
 また、我々のような地道なフィールド調査や実験室での精密分析およびこれらの膨大なデータの解析を行う地方自治体の研究機関の重要性がますます増大すると考えられます。
(化学物質科 近藤)

■道南野生生物室オープン■
 平成10年度から、渡島・桧山両支庁を中心に渡島半島ヒグマ対策推進事業が開始されました。この事業は渡島半島(渡島・桧山両支庁と後志支庁南部の島牧村、寿都町、黒松内町の3町村)において、ヒグマによる農作物被害を軽減させるとともに、ヒグマ個体群の絶滅を回避することを目的としています。道南地区野生生物室は、ヒグマ個体群のモニタリング、ヒグマの出没状況や被害発生状況のモニタリング、そして、被害防除技術の評価の役割を担い、平成10年4月に開所されました。
 ヒグマ個体群のモニタリング調査では電波発信器追跡調査を実施しています。この調査はヒグマを箱わなで生け捕りにし、電波発信器を装着して放獣します。電波発信器からの電波を受信することでヒグマのいる位置が特定でき、ヒグマがどのような環境を利用するのかといったことがわかります。
 最終的には、多くのヒグマに電波発信器を装着して長年にわたり追跡することで、死亡率や死亡原因などをモニターすることを目的としています。
 ヒグマの出没状況や被害発生状況のモニタリングは、被害が発生した畑などに出かけ、現地調査を実施しました。現地では被害を受けた作物の種類や時期などを聞き取りするほかに、ヒグマの足跡やフンなどの痕跡を調べています。
 平成11年度からは、電波発信器追跡調査のための生け捕り作業も本格化する予定で、また、被害防除の実験も計画されており、忙しい日々となりそうです。

 名 称  北海道環境科学研究センター
      自然環境部道南地区野生生物室
 所在地  〒043-0044 檜山郡江差町字橋本町72−1
 TEL  01395(2)5456
 FAX  01395(2)4852
(道南地区野生生物室 富沢)

■「毒」と「劇物」について■
 昨年は本当に「毒」という言葉を目にあるいは耳にする機会の多かった年でした。そのさなか、これまで「普通物」として取り扱われていた「アジ化ナトリウム」という化学物質が平成11年1月から「毒物」に指定されました。
 それでは、「毒物」「劇物」「普通物」のさかい目はどうなっているかといいますと、化学物質の毒性はラットなどを用いた生物実験で定められます。その実験方法もいくつもあるのですが、およその目安として経口摂取による体重1kgあたりの50%致死量が30mg以下の物質(つまり体重50kgの人が1.5g飲んだ場合に半分の割合で死んでしまうと思われる)を「毒物」、30mg〜300mgの物質を「劇物」、300mg以上の物質を「普通物」というように分類されています。「アジ化ナトリウム」はどのくらいかと言いますと、文献にもよるのですが、およそ数十mgが50%致死量であるようです。ちなみに三酸化二ひ素(亜ひ酸)は数mgなので「毒物」に指定されています。
 身近なもので例を挙げると、タバコに含まれる「ニコチン」は体重1kgあたりの50%致死量が7mg程度と、実は「毒物」に指定されているのですが、経口摂取(食べてしまう)するものではないのでそんなには危険がないのです(幼児などが誤って飲み込んでしまった場合は危険でしょう)。
 また、上述のとおり、「普通物」といっても「まったく毒性がない」という意味ではありません。このことは、約400年前の学者パラケルススの「すべての物質は毒である。毒でない物質は存在しない。それが毒となるか薬となるかは、用いる量に依存する」という言葉が最もよく言い表していると思います。
 以上のように、化学物質の有害性について、今回取り上げた急性毒性の尺度のほかに、「発癌性」や「催奇形性」というようなもっと長い期間にわたる尺度もあります。最近は「内分泌撹乱作用」(いわゆる環境ホルモン作用)と言う尺度も出てきて、化学物質の安全性の評価法が多様化し、難しくなってきているのが現状です。
 私達は化学物質(食品や天然物も含めて)について考えるとき、どうしても「便利さ」や「薬としての効果」といった「メリット」の方ばかりに目を向けがちですが、その裏側にある「デメリット」についても考え、そのバランスについて我々自身が判断しなければならないということかも知れません。そのためには化学物質に関する情報が提供されなければならないのですが、いろいろと問題点もあるようです。
(環境科学科 永洞)

■ヨーロッパのビオトープを学ぶ■
 身近な自然の急速な減少に伴い、失われた自然をもう一度よみがえらせようという試みが全国で始まっています。林業試験場の長坂晶子研究職員とともに、デンマークやドイツなどヨーロッパ5カ国を訪問し、ビオトープ創造(自然の復元)の手法を学ぶ機会を得ました。
 過去に自然のほとんどをなくしたヨーロッパは、国や地方自治体のプロジェクトとして計画的に自然の復元に取り組んでいます。
 私たちが目にした復元手法は実に簡単なものでした。直線化された川に、ショベルカーで蛇行部分を作ったり、3面張のコンクリートを取り去ることによって、2〜3年で植物が岸を覆い、川には魚が戻ってきます。また、生産性の低い農地を買い上げ、浅いくぼみを掘ることによって、そこに雨水がたまり、湿地が形成されます。大きな木以外は、人の手で植物を植えたり、動物を放すことはめったにありません。人間はきっかけを与えるだけで、単調な自然が遷移の過程を経て、生物相の豊かなビオトープへと変化し、時には貴重な動植物が見つかることもあるそうです。
 条件の異なる北海道でこの方法をそのまま導入することはできませんが、工事終了時の完成度を求めるのではなく、遷移の過程を大切にするヨーロッパの考え方は、北海道の環境条件に合ったビオトープ創造手法を考えるうえで重要な柱になると思いました。
(植物環境科 西川)



■中国黒竜江省環境保護局■
 平成6年度から相互訪問している中国黒竜江省へ平成10年10月18日から2週間、道環境生活部環境室環境政策課石川照高氏とともに訪問しました。
 訪問地はハルビン市を起点に高速道路沿いの大慶市、チチハル市及び牡丹江市でした。ハルビン市の黒竜江省環境保護局、省環境保護科学研究所および各4市の環境保護局観測所を訪ね意見交換をしました。
 この間、ハルビン市の大洪水後の松花江、大慶市の油田地帯、チチハル市の札鶴湿原のタンチョウ保護区、牡丹江市の鏡迫湖および各市にある水処理施設を視察しました。意見交換の内容は、省で最長河川の松花江における水銀・化学物質汚染や湿原生態系の共同研究、また、簡便な水処理技術、大気汚染の測定技術、情報公開・住民への環境教育の手法等でした。
 同省は、北海道と比較すると、土地は広く人口も多い大陸気候であり、また、急速な経済発展を優先中であること等の要因を抱えて、環境の法律整備、監視体制、発生源対策、特に上下水道等の社会基盤整備を同時に短期間で取り組まなければならない現実を目の当たりにして、今後、どのような貢献が可能なのかお互いに意見を交換しながら進めていく必要性を実感しました。
(環境科学部 坂田)

■全国公害研協議会各表彰で2名受賞■
有末二郎環境保全部主任研究員が平成10年度の全公研会長表彰を受賞しました。26年間にわたり水環境の有機汚濁等の防止に関する調査研究に取り組み、環境保全技術の開発や向上に優れた業績をあげたことによるもので、平成10年12月8日、東京都での全公研総会で藤島弘道会長から表彰を受けました。
また、村田清康環境科学部環境科学科長が平成10年度全公研北海道・東北支部長表彰を受賞しました。同じく26年間にわたり、富栄養化の解明、化学物質汚染の実態把握、ゴルフ場農薬対策などに多くの業績を残したことによるもので、平成10年5月19日、岩手県での支部総会で土井龍雄支部長から表彰を受けました。
(企画調整課)


■お知らせ■
○ 村野紀雄自然環境部長が平成10年3月31日付けで北海道を退職し、酪農学園大学環境システム学部地域環境学科教授に就任されました。
○ インターネットホームページの内容を整備し、開設しました。ご利用ください。
  アドレス:http//www.hokkaido-ies.go.jp
(企画調整課)