海、砂山、浜辺のうた、浜千鳥、椰子の実・・・、我が国には、海岸の情景をうたったなつかしい歌がたくさんあります。これらの歌が描いたような自然の砂浜が、現在どれくらい残っているのでしょうか。
 環境庁の調査では、日本の海岸線のうち自然海岸は55.2%と約半分となり、人工海岸は30.3%と約3分の1を占めるようになりました。自然が豊かだといわれている北海道でも、自然海岸は61.1%、全国の都道府県中10番目で、人工海岸は21.7%と約2割を占めています。また、自然海岸でも、周辺が砂利の採取や開発などによって大きく改変されているところが多く、自然のままの海辺はわずかだといってよいでしょう。
 道内には、原生花園といわれる海岸植生の豊かな海岸があります。最近そこでも、植生の衰退がみられる所が多くなっています。
 例えば、オホーツクの小清水原生花園では、ハマナスやゼンテイカ、エゾスカシユリなどの海岸の草花が衰退し、ナガハグサやオオヨモギなど牧草や普通の土壌に分布する内陸性の植物が繁茂するようになりました。この原因は、馬などの家畜が放牧されなくなって砂が安定してきたことや、蒸気機関車の野火がなくなって腐植がたい積するようになり、内陸性の植物が生育しやすくなったからだろうといわれています。このため、春先に枯れ草を燃やす火入れや、馬の放牧が試験的に行われています。
 また、北オホーツク浜頓別のベニヤ原生花園では、ハマボウフウやハマハタザオ、エゾカワラナデシコなどがみられる砂浜で帰化植物のタンポポモドキやコウリンタンポポが増えています。この原因は調査中ですが、人為的な影響や気象条件の変化によって海岸地域でも内陸性の植物が進出できるようになったことが考えられます。
 天塩の海岸では、帰化植物のマツヨイグサが一面に黄色い花を咲かせているところがあります。そこは砂利を採掘した砂丘跡で、他地域から持ち込まれた土壌によって整地された所です。
 石狩海岸はもっと深刻で、砂丘内に車両が無秩序に侵入し、海岸植生の破壊が進んでいます。以前は漁師や釣り人のための道が砂丘を横切っているだけでしたが、1990年代の初めごろから砂丘上に網の目のような通路跡が目だつようになりました。レジャー用四輪駆動車やオフロードバイク、バギー車等が頻繁に乗り入れるようになったからです。規制可能な一部の港湾区域部分では、石狩市がロープを張って車の侵入を防いでいますが、国民が自由に使用できる「国有海浜地」では、まだ規制はされていません。
 私たちは、車両の乗り入れ禁止さくを設けて、植生がその後どのように復活するかを調査しました。幅3mほどの通路跡の裸地に、周囲からテンキグサ、ハマヒルガオ、ハマニガナなどが地下茎をのばして徐々に侵入し、3年後にはまわりと区別がつかないくらいになりました。しかし、ハマボウフウやハマハタザオ、カワラマツバなど、主に種子の散布によって分布を拡大する植物はほとんど定着しませんでした。4年間で12uの調査地に、ハマボウフウの芽生えが1本見つかったにすぎません。車両の侵入防止さくは大きな効果があり早急に設置することが必要ですが、いったん植生が破壊された砂丘は、もとの多様な海岸植生に戻るのに長い時間を要すると考えられます。
 また、乗り入れを禁止しても植生が復活しない場所もあります。植生が踏み荒らされ、なくなった所では、砂がたくさんふきとばされて浸食され、通路跡だけえぐれるようにくぼんで、その結果砂丘自体が崩れてしまうのです。
 海岸植生が破壊されることによって砂の移動がどれだけ大きくなるのか。砂丘の崩壊を防ぐ方法はあるのか。海岸植生を早く復元するにはどうすればよいか。砂丘生態系全体の保全対策をたてるために、植生や地質など関連する分野で共同研究を進めていきたいと考えています。
(自然環境部 宮木)

■湖の環境保全と流域解析■
 北海道には、1ヘクタール以上の面積をもつ天然湖沼は134もあります。私たちは、そのたくさんある湖沼の中で、特に環境上問題があるところを重点的に調査、研究をしています。
 湖の環境保全を考えるとき、湖の内部現象(物質循環、生態系)を把握することは最も重要ですが、しかしそれのみでは問題は解決できません。なぜなら、湖にはそこに水が流れ込む"まわり"(流域)があるからです。湖の環境を的確に把握し保全していくためには、流域の汚濁源の把握及びその挙動の解析も重要であり、できるだけ正確に湖への汚濁物質の流入量及びその変動に関して把握する必要があります。
 天気のよい時には流域から流出しにくい汚濁物質も、雨の時には急激にかつ大量に流出します。その流域汚濁源の雨天時の挙動をしっかりと把握することも非常に大切です。近年は現地に設置すれば自動的に採水をしてくれる自動採水機や、河川の流量と関係の深い水深を連続的に測定・記録してくれる水深計などもあり、変化の激しい降雨時に河川水質の解析のための調査を、確実に行うことができます。
 また、特に北海道は広大な大地に農業が大規模に営まれており、そのような農地からの汚濁物質の流出解析が非常に大切になっています。現在は広い酪農地域をもつ流域の解析を実施しています。湖によっては流域全体の広さが2万5000分の1の地形図にして20枚以上にもおよぶほど広いものもあります。具体的な解析作業の一として は、河川のおもな調査地点に対する流域の等高線を読みとりながら記入していくとか、数百件にもおよぶ農家の位置を地図に落とすとか、その各農家からの河川までの距離や、河川に至ってから湖に至るまでの流下距離を、キルビメータを使って読みとったりなど、地道な作業を実施しています。このような作業を積み重ねることによって各農家から発生した汚濁負荷が湖まで到達する量を正確に把握することができるようになります。
(地域環境科 三上)

■キタホウネンエビ■
 キタホウネンエビという名前の生き物がいます。北海道の中でもごく限られた地域だけに生息している淡水性の甲殻類で、国外での生息は確認されていません。エビという名が付いていますが、我々がふだん食用にするエビとは系統学的に異なるものです。成体の体長は1.5〜2.0 cm程度で、甲殻類でありながら体表に堅い殻をもっていません。これは甲殻類の祖先がまだ殻を進化させる前の形態に近いものであり、キタホウネンエビは、いわば「生きた化石」とでも言えるでしょう。水中では11対の脚を波状に動かしながら背中を下にしてゆったりと泳ぎます。その姿の優美さからか、英語ではこの仲間をfairy shrimp(妖精のようなエビ)と呼びます。なお、和名は「北豊年エビ」の意味で、本州の水田に生息するホウネンエビ(大発生する年は豊作年という言い伝えがある)の近縁種なのでそう名づけられました。
 キタホウネンエビは普通の池や沼には生息していません。草木の生い茂る林の中のくぼ地に、春、雪解け水が集まってできる「水たまり」を生息場所としています。地形や積雪量によって大小様々な水たまりができますが、大きなものでは広さが数百m2、深さが1m 程度にもなります。多くの水たまりは2〜3か月程度で水が干上がってしまいます。その短い期間がキタホウネンエビの生息期間です。
 キタホウネンエビは、雪がとけて地表部に水がたまりだした直後に直径0.4 mmくらいの卵から孵化します。水温は限りなく0℃に近い冷たい水です。その後、水温が上昇するにつれて急速に成長します。4〜5週間で体長が1cm以上になり、産卵を始めます。えさはバクテリア、植物プランクトン、原生動物、ワムシなどを食べているようです。水底に産み落とされた卵は水が乾燥した後、約10か月の間、土の上で夏季の高温、冬季の凍結に耐えて次の春を待ちます。
 キタホウネンエビがなぜそのような環境に生息するのかは興味深いところです。これには魚の存在が関係しているようです。キタホウネンエビの仲間は古生代には湖沼や海などにも広く分布していたことが化石から知られています。それらが姿を消した時期が、魚が進化してきた時期と一致しているのです。つまり、多くの水域では魚に食べ尽くされてしまい、魚の生息することができない、一時的な水たまりにひっそりと生き残っているのだと考えられています。
 
(地域環境科 五十嵐)

■北方圏フォーラムにおけるヒグマ保護管理指針 作成プロジェクト■
 日本では北海道のみに生息するヒグマですが、目を世界に向けると、北半球のユーラシアから北アメリカに広く分布し、温帯北部から亜寒帯に位置する北方圏諸地域の共通の野生動物であることが分かります。北海道のほか、ロシアサハリン州、アメリカ合衆国アラスカ州などにより構成される北方圏フォーラムは、北方圏地域の共通の財産ともいえる野生動物の適正な保護管理を推進するために、北海道が中心となって北方圏野生動物保護管理指針を1996年に策定しました。そして野生動物保護管理を具体化する取組の第一弾として、北方圏共通種のヒグマを対象とした保護管理指針を策定する作業が1998年から3か年計画で進められています。
 この作業には、北海道のヒグマの生態や保護管理の研究を担当している私も加わっています。1998年9月にアメリカ合衆国アラスカ州のアンカレジで開催された北方圏フォーラムの理事会でヒグマ保護管理指針策定のための分科会が設立され、1999年6月にはフィンランド共和国ラップランド県のロバニエミでの北方圏フォーラム総会で、参加地域のメンバーと指針作成に向けた討論をしてきました。  2000年度中の完成を目指して、道自然環境課や国際課の皆さんとともに各地域から集まりつつある情報のとりまとめを行っているところです。ヒグマをはじめとした野生動物に関する北方圏諸地域の状況は、特にロシアを中心にこれまで世界的にもよく知られていなかったのですが、この取組を一つのきっかけとして、当研究センターと北方圏諸地域の専門家とのネットワークがますます広まればと考えています。

(野生動物科 間野)



■科学技術特別研究員の高橋裕史さんから■
 平成12年1月1日付で科学技術振興事業団特別研究員に採用され、野生動物科に派遣されました。これから3年間お世話になります。私は大学院修士課程のときから野生動物科長の梶さんに指導いただきながら、洞爺湖中島でエゾシカの行動・生態について研究を始めました。現在、中島のシカは前例のない生態を見せており、共同研究によって様々な分野からシカの生物学を解明しようとしています。当初は単純にシカの行動に興味が向いていましたが、シカの影響により年々変わっていく生息地を目の当たりにし、また地元の方と接するうちに、野生動物の保護管理の必要性とその在り方に無関心ではいられなくなりました。 これからは、生態研究に限らず様々な方との交流を深め、野生動物の保護管理管理を含め様々な環境問題の実際についても学んでいきたいと思っています。どうぞ皆様のご指導くださいますよう、よろしくお願いいたします。

 ※科学技術特別研究員(若手研究員)事業とは、科学技術庁の外郭団体である科学技術振興事業団が行う事業で、同事業団が、創造性豊かな若手研究者を研究員として委嘱し、その研究者を受入機関に派遣する事業です。研究員には、整った環境で自らの研究を推進する機会を提供し、受入機関には人材を提供し、研究交流を促進することを目的としています。



■黒竜江省との環境保全交流■
 平成11年12月7日、当センターで、中国黒竜江省環境保護局副局長李景彬氏と環境観測中心站長李平氏の2名を迎え環境保全技術検討会を開催しました。これは、平成8年度から道と黒竜江省が行っている環境保全交流事業の一つとして開催したものです。
 検討会では黒竜江省における環境保全の取組や、環境監視状況等の報告がありました。当センターからは、「空気清浄地域の空気質」「酸性雨・雪」「環境変異原」「北海道の水環境」「地理情報システムの応用」について各担当研究員が報告しました。今回の交流をとおして相互の環境保全取組への理解を一層深め、2つの地域でかかえている課題解決のための相互協力を一層進展させることを確認しました。
 
(企画調整課)

■全国公害研協議会表彰で受賞■
藤田隆男環境科学部地域環境科長が平成11年度同協議会北海道・東北支部長表彰を受賞しました。26年間にわたり、主に鉱山公害に関する調査研究や地熱発電アセスメント、六価クロム汚染調査などに携わり、現在は、若手職員を指導しながら、湖沼の汚濁機構の解明やJICA研修などに精力的に取り組んでいます。これら数々の業績を残したことが認められ、平成11年5月26日、山形県での支部総会で福夛寛二支部長から表彰を受けました。
(企画調整課)


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