【第5回】

新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞ気候変動適応文献シリーズをよろしくお願いします。

さて、今月は河川や湖沼の結氷についての話題です。スケートやスノーモービルなどのレジャー、わかさぎなど氷下漁(こおりしたりょう)に影響を与える結氷。 サロマ湖では、2004年,2007年は全面結氷せず、2009年には結氷が4分の1にとどまりました。一方、弟子屈町の摩周湖では2012年、4年ぶりに全面結氷したと話題になりました。摩周湖は2013年も全面結氷しており2年連続の結氷となっています。

気候変動によって北海道の河川や湖沼の結氷の状況は将来、どのように変化するのでしょうか?

◆◆◆ 結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響 ◆◆◆
◇◇◇ 著者:杉原幸樹ほか(2010) 水工学論文集,第54巻 P1525-P1530◇◇◇ 


積雪寒冷地の湖沼や河川では、結氷によって酸素の供給が遮断されるために水質が悪化する傾向があることから、温暖化による結氷期間の短縮が水質改善に向かう可能性があるとしています。 一方で、琵琶湖(滋賀県)においては、豊富な酸素を含む表層の水が冬季の冷却によって重くなり、湖の撹拌(全層混合)が起こることで酸素が行き渡らせることが、温暖化によって循環が停滞してしまって逆に水質が悪化してしまうことが懸念されているとしています。

今回の文献では、全面結氷する茨戸川を対象に水質の気候変動による影響を検討するとともに、結氷下の水質現象を反映させた「水質予測モデル」を構築して気温を変化させたときの水質及び結氷期間などを予測していますのでご紹介します。


「水質予測モデル」は既に著者自身で構築している茨戸川における生態系モデルに、結氷を考慮した水温や水質影響を加味させています。その方法は、

【1】積算寒度から氷厚を推定
【2】大気・結氷板・河川水の間の熱の移動を考慮した数値モデルを作成、再現性を確認したのち、
【3】気温を変化させたときの水質及び結氷期間を予測

という手順を踏んでいます。

【1】
ここで、積算寒度とは日平均気温が氷点下の日を抽出し、それらの日の温度の値(絶対値)を合計したものです。
(例:積算範囲が5日間でそれぞれの日平均気温が、[-3,4,2,-1,-5]の場合、積算寒度は「(-3)+(-1)+(-5)」の絶対値の『9』となります。)
今回は11月1日~3月31日までの期間の積算寒度を用いています。 その結果、茨戸川の氷厚は1998年~2008年の間で0.35~0.54mと算定し、この結果から氷厚を0.5mに固定して計算しています。

【2】
結氷のモデリングは熱収支による結氷推定を行っていますが、そのために様々な数式と初期条件が登場します。 このようにして結氷影響を組み込んで2001年の再現計算を行い、結氷を考慮した水質モデルがおおよそ実現象を再現できているとしています。

【3】
水質予測モデルを使って温暖化影響の水質影響の試算を行った一部が表2になります。 ここで「基準」とは2001年(再現計算を実施した年)、「1.1℃上昇」と「6.4℃上昇」はそれぞれIPCCの第4次評価報告書に記されている2100年までの気温上昇の予想の最小値と最大値を根拠にした設定値です。 上部湖盆,樽川合流前共に気温の上昇に従い,BOD濃度の上昇傾向,解氷時期の早期化,結氷期間の短縮化傾向が結果として算出されました。 BOD濃度の上昇傾向は上部湖盆のほうが強くなっています。(基準年と気温を6.4℃上昇させた場合で,上部湖盆で1.12倍,樽川合流前で1.03倍) これは上部湖盆におけるプランクトンの滞留時間が長く、温度上昇により内部生産が活発になりやすくなってBODの増加が樽川合流前よりも進むことによると説明されています。

このように、茨戸川では、気温の上昇に伴いBODの上昇、つまり水質が悪化するという試算となりました。積雪寒冷地では、結氷期間中の嫌気化による水質悪化が、結氷期間の短縮で抑制されて水質が改善される可能性もあるのですが、茨戸川ではプランクトンの増殖増加の影響がそれを上回り、平均してみるとBODが悪化する予測となったようです。


出典:結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響 図-1及び表-2より

【コラム】
日本国内湖沼の結氷条件と温暖化による変化(著者:濱田浩美(2011) 陸水物理研究会2011年東京大会 要旨まとめ P36-P37)
では、摩周湖における1月から2月の期間(1月1日~2月28日)の積算温度を1993年から2010年までプロットしています。
この場合の積算温度とは1日のうちの最高気温と最低気温をある一定の期間にわたって合計したもののことです。

その回帰直線は上昇傾向にあることが示されていて、今後もこの傾向が続けばさらに結氷の確率が下がると考えられます。

図2 摩周湖における積算温度の経年変化と結氷
縦軸:積算温度、横軸:年 
赤い点線は(1月1日~2月28日)の積算温度の回帰直線を表す

出典:日本国内湖沼の結氷条件と温暖化による変化 図4より

一方、環境科学研究センターも参加している国立環境研究所の摩周湖長期モニタリングの観測結果(http://db.cger.nies.go.jp/gem/inter/GEMS/mashu/contents/results.html) には、「結氷する年としない年で水中光の強さや水温の分布が異なっており、結氷の有無もクロロフィル濃度に影響すると考えられます。」と記載されていることから上記の論証を組み合わせると、温暖化と透明度の関係の検証も可能という結論が得られるのですが、どうでしょうか?



その昔、冬の凍った石狩川の上を歩いて渡る「氷橋」というものもあったそうです。
船が出せない真冬にかかるその橋は、自由に行き来できる冬の風物詩として、大人も子どもも、みんな喜んだそうですが、昭和34年(1959)には、それまでの木造船に変わり、鉄製の船が就航して通年運行が可能となって「氷橋」もなくなりました。
石狩河口橋ができて30年以上経ましたが、現在の気候条件で「氷橋」は復活できるのでしょうか?

【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00028/2010/54-0255.pdf


【過去の文献紹介】
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-

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